ヴィア: 不眠の原因


「ヴィア様、あまり飲みすぎると眠れなくなりますよ?」


三杯目の紅茶に砂糖を一つ落とした時、マルティがそう言ってきた。
「紅茶はコーヒーよりも多くカフェインを含んでおります。飲みすぎれば眠れなくなります」
気づくとあたりはすっかり薄暗くなっている。ティータイムという時間には遅すぎる時間。
眠れなくなるから飲みすぎるな…といわれても仕方無いような時間帯だろう。
「マルティ……私は注意されるほど子供でもないよ」
ふっと、一息ついて「今夜は眠らない」と続ける。



眠らない……と言うよりは、眠れないといった方が正解に近い。
もちろんカフェインの取りすぎと言うわけではないし、昼寝のし過ぎというわけでもない。



「君も、私との付き合いが長いんだ。私の体質は理解しているはずだろう?」
「理解はしております。ですが……」
理解していることと納得している事は違います……と、マルティが続ける。
表情からも納得していないことが読み取れる。
「私とて、毎夜眠れるのであれば寝ていたいよ」
口元を少しだけ緩ませてそう答える。
ヴィアはマルティが自分の体の事を思って小言を言うのは理解しているが、納得はしていない。
それと似たような物だろう。



眠れないのではなく眠らない。
眠らないのは眠れないから。
ある意味不眠症と言う物に近いような気がしない事も無い。
何年もそんな体質と付き合っているのだ。いい加減師匠のように慣れてしまえば、毎日でも眠れるのだろうが……ヴィアはいまだにそこまでの”慣れ”にはなっていない。



(眠れない原因のほんの少しでも、この紅茶にあれば楽なのだけどね……)



ふぅと小さくため息をついて、三杯目の紅茶に口をつけた。