ヴィア:明日晴れたら良いと思った

※あの子=ユーザさんと思ってください


その日の夜は、雨が降っていた。
季節に似合った冷たい……けれども雪にはけしてならない雨。
そんな日は客足も少ない。 だから早めに店を閉めた
元々営業時間などと言うのはあってないようなもだし、マルティが眠たそうにしていたのもある。


closeの看板を表に出し、静まりいかえった店内で一人、ぼーっと、水晶に映る自分の顔を眺めていた。



こんこんと、申し訳程度に小さなノックが聞こえた。




あの子が立っていた。


まるで空と同じように、ヒドイ顔をして。



奥深く根付いた偽善心が、どくりと疼いた。

「どうしたんだい?」
いつものように、ゆるい口調で。
「ああ、それよりも中へ入りなさい。 ここでは寒いだろう?」
あの子の手を取り、中へと招き入れる。
手近なソファーへ、腰掛けさせて。
暖を取れるように暖房の電源を入れる。
「外は寒かったろ?」
あの子がほんの少しだけ、首を縦に動かす。
インスタントコーヒーをついで、あの子に渡しながら問いかける。
あの子はマグを受け取ると、小さな声でありがとうと言った。

「なにか、あった……のかな、そんな顔をして」
その問い掛けには、何も言わなかった。
「まあ、喋りたくないのなら……それでも良い」
本当は、その表情の理由を知りたいくせに、偽善者ぶってそう言う。
「今日はもう、店は閉めているから……好きなだけここにいると良い」


張り付いたものにならないように、気をつけながら笑顔を作る。
あの子はこくんと一回頷いて、コーヒーをすする。
私はあの子の隣へと腰掛けて、自分の分のコーヒーを口にする。
「雨、今日は止まないだろうね」
語りかけるように、呟く。
「けれども、いつかは晴れる」
あの子の反応は特にない。
「いつか……晴れたのなら、それで良い」
小さく、しゃくりあげるような声が聞こえた。
「今は雨でも……今は泣いても」
あの子が、隣で泣いているのだろう。
「いつか笑えれば良いんだから」
あの子の顔を見ないように、続ける。


「今は、どんなに泣いていても……いいんだよ」




ああ、嫌になる程偽善的な言葉。
ここを野奥深くまで染み込んで、もうきっと取れない偽善。



けれども、その日の雨を見て。
あの子の雨を見て。



それが本心ならば良いと思ってしまった。




今日の雨は止まないかもしれない。



けれども。


けれども明日。


明日晴れたら良い。


あの子の顔も、この空も。