白蛇の場合

街を楽しそうにかけている兄妹を見た。
プレゼントの事、サンタの事、ケーキやご馳走の事をすごく楽しそうに話していた。
そこに母親がやってきて、すごく楽しそうに歩いて行った。


「うらヤまシいナァ」


自然と言葉がこぼれていた。


「なんだ? あの親子ずれのこらぁ?」
たまたま隣にいたバドにそう問われる。
「ウン。 ……僕モ妹イるからね」
「会いに行ったらいいやか」
「ウん……そウだ、ね」


いけるものならとっくに行ってる。
会えるものならとっくに会ってる。

サンタクロースさん。
プレゼントなんていらないから、妹が幸せかどうかだけ……僕に教えてください。

風の場合

昨日から、ラボの人があんまりいない。
いつもあんまり見ないけど、気配を感じないから……きっといないんだと思う。


よくわからないけど、寒くなると人がいなくなる時期がある。
たぶん、それがはじまってる。


じゃあ、きっと……こない……のね。


これが、寂しい?

シュナの場合

今日はこのあとファタエの所へ行こう。
その前に、街で花束を買って……クリスマスだから、いつもよりも大きい物が良いだろうか。
それと何か、彼女が喜びそうな物を買って行こう。


今日は、ずっとファタエの所にいよう。
本当はずっとそばについていたいけれど、それをファタエは許してくれないだろう。
でも、せめて……今日くらいは許されると信じたい。


雪が降ればファタエは喜びそうだけれども、出来れば降らないで欲しい。
あの時、私には雪が貴女を奪ったように見えたから。

ひとまろの場合

「くりすます……って今日だっけ?」


カバンからノートを取り出しながら、ひとりやたらと盛り上がっているにえに問い掛ける。
「今日はイブやー」
にえがすごく楽しそうにそう答えた。


「そっかー…」


なんか街中が賑やかだし、赤と緑に溢れてるとは思ってたけど、クリスマスなんてすっかり忘れてた。
と言うよりも、自分にはあんまり関係ないもの……だといつも思ってたし。

「なんやー、忘れとった?」
「って、いうよりも興味ないし」


そう返すとにえはつまらなそうに、ちぇーと言って台所の方に向かって行った。


「そっかー…クリスマスかぁ」


興味ないけど、あの人に何か買っておけば良かったかなぁ。

せんせいとせいと

「先生、デートしましょ?」


いきなりすぎる言葉に、思わず眼鏡もずり落ちた。


「な、何言ってんだ、教師をからかうもンじゃないぞー」
「からかってもないし、冗談でもないですー」
「そう言うもんは、同級生としてきなさい」




そう言って、少しだけ胸の奥が痛んだ気がした。

ヴィアと白蛇

「ねぇ、ヴィア」
甘ったるい猫なで声。
後ろから優しく絞めるように、首にまわされた腕。
「なんだい?」
ヴィアは本を読む手を止めることなく、面倒くさそうに答える。


「ヴィアって、ヒドい人だヨね」
「いきなりなんだい」
「なんトナく、ソウ思ったカら言っタだけ」
くすっと楽しそうに笑いながら、邪気の無い物言いで痛い所を抉るような事を言う。


「まあ、私は嘘付きだから否定は出来ないけど」
「下手だケドね、嘘付クの」
くすくすと子供のように笑いながら、ヴィアの頬に軽く唇をを寄せる。
その動きは子猫がじゃれているようなに感じた。

「君だって、普段は嘘付きじゃないか」
ヴィアは読んでいた本を閉じ、白蛇を振り解く。
「今くらい、普通に喋ったらどうだい?」



「ふふ、ヴィアって本当酷い人だね」

水:距離

手を伸ばして、あの暖かな手を握り返してみたい。
手を伸ばして、あの優しい笑みに振れてみたい。


それは許されないことで、きっと拒まれる。


あの笑みを見ていると。
あの温もりに触れていると。


近づいてもいいのだと、思い違いをしてしまいそうで怖くなる。



けれども少しだけ。
ほんの少しでいいから、この距離を縮めたいと願ってしまう。